給食施設における『美味な食事提供』のために~給食施設の「簡便な加熱温度管理手法」の開発の試み~

給食施設の衛生管理については、厚生省の「大量調理施設衛生管理マニュアル」を原則として、特に加熱温度管理に関しては厳しく定められている。一方この当該衛生管理作業の『食品の中心温度を測定した上でさらに加熱を1分以上続ける』ことが、給食施設現場において手間であることや、一定温度に達した上でのさらなる加熱が料理の美味性を損なうのではないかという点で問題となっている。本研究では、給食施設現場における加熱温度管理の実態を調査することで給食施設における加熱温度管理の実態を明らかにし、さらに調査で得られた温度管理方法は適切な衛生管理手法であるのかどうかを検証する。得られた成果から、「新たな食品の加熱温度管理のマニュアル」の作成を試みる。

コムギNAM集団を用いた大規模eQTL解析

コムギは広く栽培され、世界で消費されるカロリーの約2割を占める主要な穀物であるものの、6倍体の巨大なゲノムを持つため、コムギのゲノムワイドな遺伝子型判別、発現解析には、いまだ技術的・費用的な困難がある。本研究では、応募者が開発した低コスト・多検体RNA-Seqを日本で整備が進められているコムギNAM集団(Nested Association Mapping Population)に適用し、それらのゲノムワイドSNPデータ、トランスクリプトームデータを同時に取得することで、大規模eQTL解析(expression QTL)を行う。その結果得られる、遺伝子発現多型を制御するゲノム配列多型の網羅的な情報は、コムギのゲノム育種を加速する重要な基盤となる。

琵琶湖水草の有機肥料としての評価とその普及

琵琶湖に繁茂する水草は、かつて貴重な肥料として盛んに利用されていたが、化学肥料の普及に伴い、現在では環境保全や産業発展を妨げる厄介者として扱われることが多い。琵琶湖を中心とした物質循環型の持続可能な社会を実現するためには、この水草を有機肥料として有効に活用できることが要となると考えられる。そこで本研究では、水草の有機肥料としての能力を自然科学的手法により正確に評価し、その普及に向けた取り組みを、社会科学的手法により生産農家レベル(大きな循環)と市民レベル(小さな循環)において実施する。そしてこれらの異分野の研究成果を統合することによって、生産者、流通業者、消費者が共に利益を享受し、琵琶湖周辺の環境と農業の保全につながる研究を、行政と協力しながら行う。

WABARAの科学:和バラの生育とUFB水の利用、その香りが持つ力

守山市を拠点に和バラに関して世界的な事業展開を行うRose Farm KEIJI。その活動で我々が興味を持ったのが、ウルトラファインバブル(UFB)化した湖水の利用が和バラの生長に与える影響、天敵農法における害虫の発生と消長、和バラの香りが我々の気分に変化を与える科学。すでに、UFB 水は土壌の細菌叢を変化させ、植物個体の花・葉っぱの数を増やすという興味深い知見を得た。
さらに一連のWABARA 生長サイクルを考える上で測定すべきは、無機イオン蓄積とその流れ。実際、和バラの品種によって水の吸い上げと生長に個性があると彼らは語る。UFB の科学、和バラの科学、自律神経の科学、三つ巴のサイエンスを展開し、その出口の一つとして和バラに良い土を考える。

メロン・ククミシンの特性と果実特異的発現機構の解析

メロンなどのウリ類果実はしばしば食物アレルギーを引き起こす。ククミシンがアレルゲンの一つであるという報告があるが、詳細は不明である。本研究の第一の目的は、食物アレルゲンとしてのククミシンの特性を明らかにし、診断・治療に役立てることである。第二の目的は、ククミシンの果実特異的発現の分子機構を解明し、果汁中に有用タンパク質を分泌・蓄積させる分子農業の技術開発の基盤とすることである。

日本農村社会における精進料理と仏教食の研究 ―お斎を中心に―

日本の和食研究は国際的な研究へと発展しているが、多くは料亭などの高級料理が中心的な研究となっている傾向にある一方で、食と農を結びつける研究としては、日本の農村社会におけるの「お斎」の重要性は無視できない。浄土真宗で報恩講の時に出される「お斎」は。農村内部の農作物を用いて共食し、信仰集団の結束を高めようとするものである。消滅しつつある今こそ本来の「お斎」の意味を考え、社会的役割とその持続性を明らかにする必要がある。

コムギの冠水ストレス応答に及ぼす異種細胞質の効果と核細胞質相互作用に関する解析

コムギの冠水ストレス応答に働く異種細胞質と核細胞質相互作用の効果を明らかにしたい。
このため、コムギで育成された核細胞質雑種コレクションを用いた生物検定、転換産物解析と光合成・呼吸関連酸素活性測定を実施する。
具体的には、生物検定で選抜した冠水ストレス感受性レベルを異にする対照的な核細胞質雑種群を供試し、核・細胞質両ゲノムの冠水ストレス特異的な応答発現を転写産物プロファイルの変動から評価するとともに、呼吸と光合成関連の酵素活性を測定し、オルガネラ機能に及ぼす冠水ストレスの効果を比較解析する。

植物間コミュニケーションの農業への応用

傷を受けた植物が放出する匂いが、隣接する健全植物の防衛形質を誘導する「植物間コミュニケーション」という現象を、農業技術に応用させることを目的とする。申請者らは、ダイズが生育初期にセイタカアワダチソウを刈り取った匂いを受容すると、ダイズのその後の耐虫性を向上させること。さらに、種子(次世代)の機能性二次代謝物質(イソフラボン)量が増えることを明らかにした。植物間コミュニケーションは、匂い源によって受容した植物の反応が異なることも報告されている。そこで、匂い源(雑草)と作物の組合せとして、もっとも効果的な[①耐虫性②収穫物として]組合せを探索すると同時に、その匂い成分を解明し、農業技術に発展させたい。

作物は土を作るのか?~作物根による鉱物風化メカニズムの解明~

従来の土壌生成機構論では、植物は土壌有機物の給源物質あるいは物理的風化の要因(樹木根
など)として捉えられてきた。近年、三要素(N,P,K)長期連用試験の結果から,カリウム欠乏条
件では作物が一次鉱物を崩壊させK を溶解・吸収すると予想されるだけでなく,ケイ酸を吸収す
る稲は,結果として活性アルミニウムを土壌に蓄積させると推察できた。また,大豆の長期連用
試験では可給態ケイ酸が増える傾向にある事が示唆された。本研究では作物根が一次鉱物を溶解
(崩壊)する現象をポット栽培試験で確認・再現し、作物の栄養吸収特性によって土壌風化の状
況が異なる事を明らかにする。これまで、鉱物の風化を促す化学反応の要因として①根分泌有機
酸,②根圏微生物が検討されてきたが,作物種による反応の差違を説明できない等の未解決な部
分が多い。本研究では根細胞壁表面にある官能基の多様性と鉱物との相互作用を検討し,根細胞
壁表面にあるキレート反応部位の鉱物風化(土壌生成)における重要性を証明する。

ライムギ由来の超小型染色体に座乗する細胞質機能回復遺伝子の同定 -新規雑種コムギの育成とコムギ人工染色体の構築を目指して-

ライムギの細胞質を有する六倍性コムギ (cereale)-Chinese Spring(CS)に特異的に残存している超小型染色体 ミジェット(midget) の全分子構造を解析し、ライムギの細胞質機能維持に必須な核遺伝子Rye-cytoplasm-specificRcs)gene(s)を同定することを目的としている。そのため、このミジェット染色体をフローサイトメトリ法により分画(ソーティング)し、そのDNA塩基配列を次世代シーケンサーにより決定し、Rcs候補遺伝子を特定する。

次世代シーケンサーを用いた在来家畜(日本在来馬)の遺伝資源の探索

在来家畜は 、個体数・品種数ともに急激減少しており、多くの品種が絶滅の危機に瀕している。在来家畜の中には近年の世界的な気候変動や感染症の流行に耐性をもつ品種が存在 し、今後さらに深刻化する家畜関連問題を解決するための重要な遺伝資源となる可能性がある。2016年度食と農の総合研究所研究プロジェクトにおいて、日本の在来家畜である対州馬への外来品種から遺伝浸透を調べた際に、副次的に対州馬固有の特徴と機能的に一致する遺伝子に人為選択の痕跡が見つかり、そのゲノムには対州馬固有の特徴の原因遺伝因子があることが示唆された。本計画では全ゲノムシーケンスを利用することにより、対州馬の特徴に影響を与える原因遺伝子とその原因変異を調べ、対州馬の持つ遺伝資源の検出を行う。

「姉川クラゲ」配合食品の商品化に向けての取り組み

滋賀県姉川流域に自生しているイシクラゲ(通称「姉川クラゲ」)を対象に、その遺伝学的な解析や栽培法の確立を通して、配合食品の開発、販売・流通の構築を目的とする。本研究の特徴である社会科学的知見と自然科学的知見の統合によって、これまで地域で注目されてこなかった「姉川クラゲ」に新たな価値を見出すことができる。そして、本研究の結果を踏まえた「姉川クラゲ」の商品化を目指す取り組みが、地域経済の活性化や龍谷大学のブランディングに貢献することも念頭に置いている。また、本学部4 学科の担当教員のゼミ生がそれぞれの切り口から調査研究に参加し、定期的に研究会など意見交換の場を持つことで、「食の循環」を研究レベルで体験する教育効果も期待される。

水田転換畑の早期栽培エダマメにおける莢数制御の生態生理学的解析

水田農業高度化の一方策として,湿害回避が比較的容易で高品質化による高い販売単価の設定が可能な2 月播種による「早期栽培エダマメ」の安定生産技術の開発と,その基盤となる着莢数制御の生態生理学的知見を得ることを目的に立案した.食の安全・安心の視点から国内産農産物の需要が高まる中で,「早期エダマメ」は病虫害や発生雑草が少なく,食品残渣堆肥などの窒素源を利用することで有機農産物としての付加価値を付与した生産の可能性がある点に着目し,技術の学術基盤を構築する.

栽培条件が有色米の色素産生に与える影響と抗酸化活性の評価

有色米における温度や光、肥料条件などの環境・栽培条件が色素生産に及ぼす影響の評価および抗酸化活性をはじめとする機能性評価の2つの観点から、有色米の利用可能性について評価を行う。そしてこれらの成果を、生産者および消費者に対して情報提供を行うことで、安定生産や需給の増加を目指す。

TPPをはじめとする貿易自由化の流れの中で、日本農業が生き残っていくためには機能性等の点で、差別化した農産物を生産している必要があると考えられるが、本研究はこのような作物生産技術の開発に貢献するものである。

「近江かぶら」の祖先種と後代種に関する実験植物学的研究

「近江かぶら」は大津市の伝統野菜の一つで、ミズナを祖先種としてスグキナ(酸茎菜)を経て成立したこと、江戸時代中期に京都に持ち出されて聖護院カブに改良されたこと、が伝承されている。しかし、これらの伝承は科学的根拠に乏しく再検討の余地を残している。
本研究代表者は、大津市の一戸の農家によって最近まで維持されてきた「近江かぶら」の種子を入手することができた。DNAマーカーを用い、「近江かぶら」とミズナ・スグキナとの比較を行って系統関係を明らかにし、さらに扁平な形の「近江かぶら」と丸形の聖護院カブを交配し後代の形状を調査することによって、「近江かぶら」の成立の過程と後代への展開の詳細を明らかにする。

滋賀県の地域特産野菜として「空芯菜」を導入する試み —栽培管理と収穫後の品質変動について—

健康志向が高まる中、消費者の野菜摂取への関心は向上しているものの、実際の消費量は減少傾向である(農林水産省「食糧需給表」)。したがって、生産者と消費者のいずれの側からも野菜類の品質向上が求められており、多様な野菜類の導入が期待される。本研究では、栄養素豊富で水田での栽培が可能とされる空心菜(Ipomoea aquatica)に着目し、水田面積が農耕地の95%を超える滋賀県における新規な特産作物としての導入を目的に、栽培管理と収穫後の品質・流通・消費における一連の過程を題材にして研究を遂行する。すなわち、1)異なる環境条件における栽培方法、2)収穫後の栄養成分の変化、3)貯蔵・流通における品質保持技術、以上3点について明らかにする。高品質で安定した供給を可能として、空心菜の生産を通した滋賀県の地域活性化に繋げたい。

高付加価値園芸作物の開発とその利用—龍大発の園芸作物ブランドの構築をめざして—

野菜や果樹などの園芸作物ではきめ細かな管理や優位性を持った品種による高付加価値化したブランド作物の構築に商業上のメリットが大きい。事実、大芹川茄子(賀茂茄子)や万願寺トウガラシなどをはじめとする京野菜は注目を集めており、また、果樹分野でも、宮崎県の「太陽のたまご」(マンゴー)や石川県の「ルビーロマン」(ブドウ)の例に認められるように、その地域特有の果樹として付加価値を持たせることで、高い価格での販売が可能になっている。本研究課題では野菜と果樹に注目し、特徴ある性質を有した品種の作出や独特な栽培技術の確立により、野菜と果樹それぞれについて、高付加価値を持った龍谷大学発のブランド園芸作物の構築を目指すことを目的としている。
特に、高齢化社会を見据えた特徴ある野菜品種の作出とその利用・加工法の開発や、高品質果実としての付加価値を付与するためのブドウ栽培技術法(土壌水分管理技術等)の確立を目指す。

汎用性植物病害防除薬剤フェリムゾンの作用機作

我が国における最大病害の一つであるイネもち病の安定的な克服に向けて、殺菌剤の作用機構と植物の病原体認識機構の解析を行う。具体的には、研究代表者らが開発した静菌剤フェリムゾンに対する感受性と植物の抵抗性反応の二つをそれぞれ指標にしたいもち病菌のユニークなスクリーニングにより、これを実現する。

極めてユニークな生物活性をもつフェリムゾンの作用機構の解明は、病原糸状菌の新たな病原性発現機構の発見にもつながるとともに、新たな化学防除剤の開発のための多くの貴重な情報を得られることが期待される。

新規乾燥耐性機構の研究

陸生植物の進化的視点や、乾燥地域における作物増収の観点から、植物の乾燥耐性機構に関する研究は古くから盛んに行われている。現在までに、適合溶質の蓄積により生体膜を保護し、浸透圧を高める仕組み、根を深部にまで発達させ水を得る仕組み、気孔や葉の形態を変化させ水消費を抑圧する仕組みなどが明らかとなっている。これまで完全に乾燥したオオムギの根が休眠状態をとり、再び水分を得れば直ちにその構造と機能を回復させる劇的な現象を見出したが、乾燥に対するこのような応答は従来の常識を覆すものであり、種子や胞子以外、維管束植物において報告されていない。そこで、本研究は、この現象の機構を、組織化学的・生化学的・分子生物学的手法によって明らかにすることを目的としている。本研究の成果は、陸生植物の進化に新たな知見を提供し、乾燥耐性作物の作出に寄与する可能性がある。

高齢者の栄養ケア対策とストレス因子との関連性について ―癒やしの食事からのアプローチ―

高齢化が急速に進む今日では、健康寿命の延伸と健康格差の縮小が大きな目標である。特に、高齢者は「低栄養」、「ロコモティブシンドローム」、「認知症」など高齢者特有の疾病へと進展することが多いため、予防対策は重要である。このような背景を見据えて、高齢者に対し「疾患予防」を「食べること」を通して「心のケア」のを支援することは極めて重要である。
これまで行ってきた、現代人のストレス実態調査や各集団に対しての「癒やしの食事」の提案、高齢者の集団を対象とした骨密度測定の試みなどの結果を活用して、 高齢者の特性に合った心理的特性を加えた食生活の改善を推し進め、健康寿命を延ばすことを目指す。これは増加する高齢者の「健康への自立」および「尊厳の保持」の支援の一助になると考える。
具体的にはストレスに関する疫学調査や高齢者のストレス実態調査を試み、食との関連性を検討した「癒やしの食事」の具体的にメニューを提案したい。